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2014.01.19

海鳴り

藤沢周平氏『海鳴り』読了。

海鳴り〈上〉 (文春文庫)海鳴り〈上〉 (文春文庫)
(1987/10)
藤沢 周平

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海鳴り(下): 2海鳴り(下): 2
(2013/02/22)
藤沢 周平

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小野屋主人である新兵衛は寄合の帰り駕籠を待っていた。
その時塙屋彦助に声を掛けられた。彼も商人であるが
店と塙屋彦助の評判は芳しくなく、今も酒でやや出来上がっているようだ。
何とかあしらって歩き出した新兵衛はガラの悪そうな男たちの中で
項垂れて座り込んでいる女性を見つけた。
よく見てみるとその女性は丸子屋おかみ、おこうであった。
おこうから財布を盗もうとしていたその男たちは知り合いが通ったという事で
すぐに引き上げていった。
様子を見るとおこうは悪酔いしたらしく意識がない。
慌てて周囲を見渡しても駕籠も通らない・・仕方なく近くの店に
運び込んだ新兵衛は店のおかみに二階へ上がらせてもらい介抱する事となった。
だがそこは所謂連れ込み宿と呼ばれる類のものでやや慌てた。
だが捨て置きもできず、新兵衛はおこうの意識が戻った時に
ここまでのいきさつを説明、そのまま一人帰って行った。


白髪を初めて見つけたのはいつだったか------
懸命に働いて働いてふと気づけば自分は何を成し得ていたのか------
そんな一抹の寂しさを覚えた中年男性の心境と
商人ならではの生き方を描いた長編時代小説。
読了した感想としては「こんな日常をよく長編ししたものだ」というもの。
確かに新兵衛の元に様々な苦悩や困難が降りかかってくるけれど
"波乱万丈"とまではいかない。
謀略も、大きな事件も著名人も登場せず、かといってこれという死闘もない-------
ごく「一般」を丁寧に描いている。
普通なら退屈として途中で放ってしまいそうな内容を
こうも丁寧で情緒的に描くことで読み手を惹きつける・・
改めて藤沢氏の「力」に感嘆させられた。












以下はネタバレ。














ミステリーではないけれど未読の方はご注意。
新兵衛はあの寄合の日から様々な災難に見舞われる。
おこうを介抱した場面を塙屋彦助に目撃される
息子の夜遊びが悪化していく商売に横やりや障壁をつくられてしまう・・・
最近自分も年を取り肉体的にも精神的にも弱っている・・
そして妻おたきとは数年前から冷めた仲となり、まともに会話もできていない----
そこに追い打ちをかけていくような災難ばかりで新兵衛は常に頭を悩まされていく。
所々に描かれる「老い」の描き方が何とも哀愁漂い・・作者の心境に迫っている感じだ
大きな動きとしては、やはり丸子屋おこうの経緯だろう。
おこうを介抱した場面を塙屋彦助に目撃された事で塙屋はまずおこうへ脅しに向かう。
おこうからこっそり其の事を相談された新兵衛は何とか百両を渡しその場を凌いだが、
その頃から新兵衛とおこうは次第に惹かれあい---忍び逢う仲となっていく。
妻おたきと一緒になったのは間違いだった、そんな思いの中で出会った
理想の女性がおこうであり、おこうも夫由之助に冷血な印象を抱いており
不幸な結婚に見舞われていたようだ。
そんな二人は段々と深い仲になるが、もしこの事が世間にバレれば
商売含め今まで培ってきたものが壊されてしまう・・・
そして遂に最悪な事態-----二人が忍び逢っていることを塙屋に知られてしまうのだ。
再び脅しに来た塙屋は今度はまるごとお金を寄越すのではなく
今後の自分と妻の生活費で養ってほしいと言い出した。
もはや御終いだと悟ったで新兵衛は逆上も重なって
塙屋を締め上げてしまう。気づけば塙屋は倒れ込み反応が無い・・・

無我夢中で逃げた新兵衛だが、後日岡っ引きがやって来て
塙屋を襲った人間を調べていると言った。
詳しく聞くと塙屋は辛うじて生きているのだが意識は無く
早いうちに息を引き取るだろうという・・・・。
遂に殺人にまで手を出してしまったのだと悟る新兵衛。


何だか・・「判っていながらも深みに嵌っていってしまう人間の末路」を
しみじみ見せられた感じですね。
自分としてはおこうとの密会を始めなければ、もしくは途中で止めておけば
最悪の災難となることが無かっただろうに・・・と思う。
駄目な男だ・・と思いつつ、何時・誰もが同じ弱さに引きずられていきそうで
同調もしてしまう。こう考えると人間の弱さは情けない-----というより怖い。
誰もが心の弱っているときに誘惑に勝てるとは限らない、むしろ誘惑に陥りやすいのが
現状だと思う。浅い内に気づけばまだ幸運だが、大抵の人は深みに嵌ってから
気付くので破滅への道しか残されていないものだ。
新兵衛は商売と息子幸助の問題を乗り越えられたのに
肝心のおこうとの不倫が残ってしまい、そこから破滅への道が敷かれてしまった---
だが彼は破滅の中から「すべて捨てていく覚悟」を選択し、
店と家族を捨てておこうと逃避行へ・・・の場面で物語は終わるのだ。
何だか・・・新兵衛とおこうにはまだ一筋の光が見えるのだが
新兵衛の家族の未来を思うと暗雲を感じる。


この後自分の夫が不倫をして殺人事件を起こした後
黙って逃げたと知ったらおたきは・・・う~ん、堪らないだろうな。
共感や同調してしまう部分はあるにしろ、やはり不倫というのがいけなかったね。
最初の脅迫から関係者達にだけでも正直に全て話していればよかったものを
先送りしたり隠してしまうのは・・・やはり卑怯なのだろう。
だが自分がもし同じ境遇になったら「正直」になれるのか、と問われると
自信はない・・・こういう同調が新兵衛に対し憎めない所なのかもなぁ。
誰もが正しく、強くありたいと思うもの・・・しかし弱いのが現実。
"強い人"って眩しいものだ。
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